Webサーバー・メールサーバー・DNSの違い|制作者が説明できるインフラ基礎

「サーバーを引っ越したらメールが届かなくなった」「DNSって結局何をしているの?」は、Web制作の現場で何度も出る質問です。サイトの見た目は新しくなったのに、社内の info@ だけ静かになる。原因の多くは、Webサーバーとメールサーバーと DNS を、同じ「サーバー」という言葉で扱ってしまうことです。
先に結論です。DNS は行き先を教える案内、Webサーバーはページを出す店舗、メールサーバーは手紙を預かる郵便局です。この3つは同じドメイン名を使えても、別の機械に向けられます。違いを説明できることが、リニューアルやドメイン移管で事故を減らす第一歩です。
この記事では、フリーランスのWebディレクター兼エンジニアとして、サイト公開とメール受信を別ホストに分けてきた立場から、例えとレコードの切り分け、職種別の確認項目を整理します。固有の社名や被害額は出しません。制作で繰り返される型です。
例え話で一発理解:3つの役割分担
DNS(電話帳・案内所)
example.com は人が覚える名前です。ブラウザもメールソフトも、実際には数字の住所(IPアドレス)や「どの郵便局か」(MX)を知る必要があります。DNS はその対応表です。ネームサーバーは、対応表を置いている本棚の場所です。本棚を丸ごと別会社に移すのが「ネームサーバー変更」。本棚はそのままで、1行だけ書き換えるのが「レコード編集」です。
Webサーバー(店舗・展示場)
HTML、CSS、画像、Next.js や WordPress の公開ファイルを置き、ブラウザの「このページを見せて」に答えます。静的・Jamstack サイトなら、Vercel のようなホスティングが店舗にあたります。Aレコード(と、必要なら CNAME、AAAA)が、ドメイン名をこの店舗の住所に結びます。
メールサーバー(郵便局・ポスト)
送受信とメールボックスの保管です。Google Workspace、Microsoft 365、レンタルサーバー付属のメールは、いずれも「郵便局」です。MXレコードが、info@example.com の手紙をどの郵便局へ運ぶかを決めます。店舗の住所(Aレコード)と、郵便局の宛先(MX)は、同じである必要はありません。
失敗しやすい移行と、レコードを分けた移行
悪い例:Webの引っ越しで、メールまで止まる
旧レンタルサーバーでサイトもメールも動かしていた。リニューアルでサイトだけ新ホストへ。作業者が「ドメインの向き先を新サーバーに」と、ネームサーバーごと切り替える。新しいゾーンにはサイトの A しかなく、MX が無い、あるいは MX がサイトと同じホストを指している。社内メールが届かなくなる型です。
もう一つ多いのが、MX を example.com 自身にしたまま、ルートの A だけ新ホスト(CDN)に変えることです。MX が「自分自身」だと、手紙はサイト用の IP に届きます。そこにはメールボックスが無いので、送信側では成功に見えても、受信箱は空です。mail.example.com が CNAME でルートを見ている場合も、同じ穴に落ちます。
良い例:A だけ変えて、MX は既存の郵便局のまま
メールは今のレンタルサーバー(または Google / Microsoft)のままにする、と先に決める。DNS のゾーンは、メール側が編集できる場所に置くか、少なくとも MX と SPF を残す。サイト公開ではルート(または www)の A / CNAME だけを新ホストへ。メール用に mail の A を旧メールサーバーの IP に置き、MX を mail.example.com にする。Web は新店舗、手紙は昔の郵便局、という状態です。切替中もメールは動き続けます。「1秒も止まらない」を契約で約束する必要はありませんが、サイト切替とメール切替を同じ作業にしないことが安全です。
【職種別】現場で押さえるポイント
Webディレクター / 営業:ヒアリングと権限
着工前に聞くことは、デザインより先に次です。
- メールはどこで受信しているか(レンタルサーバー付属 / Google Workspace / Microsoft 365 / 別会社)
- ドメインは誰のアカウントか。ネームサーバーを変えられる人は誰か。ゾーン編集だけできる人は誰か
- SPF / DKIM / DMARC をすでに入れているか(フォーム送信や一斉配信があるか)
ミニ事例です。メールを聞かずにネームサーバーを新サーバー指定へ変更し、ゾーンが初期化されて MX が消える型があります。対して、切替前に現在のレコードをテキストで全部控え、メール担当と「触る行 / 触らない行」を表にした現場は、公開日にメール問い合わせが来ません。
フロントエンド / インフラ担当:レコードの使い分けと TTL
- ネームサーバー変更: 案内所の運営会社を変える。ゾーンの中身が丸ごと入れ替わることがある
- A: ホスト名を IPv4 へ。サイトのルートを新ホストへ出すときに使う
- CNAME: 別名。
wwwをルートやホストへ向ける。同じ名前に CNAME と MX / A は同居できない - MX: メールの配送先ホスト。必ず A(または他ホスト)へ解決できる名前にする
- TXT: SPF やドメイン所有確認。Resend などの外部送信は、ルートではなく指定サブドメイン(例:
send)に置くことが多い
SSL(証明書)は、新しい Web サーバーが「そのドメインのページを出している」と証明されたあとに安定します。DNS がまだ旧 IP を返す TTL のあいだは、証明書の発行や https の確認が環境によって分かれます。切替の数日前に、関係するレコードの TTL を短くしておくと、切り戻しも含めて待ち時間が短くなります。TTL を下げずに切ると、キャッシュが残る拠点だけ旧サイト、という時間が発生します。
メールの信頼性は、受信の MX とは別に、送信の SPF / DKIM / DMARC です。サイトのフォームを外部の配信 API から送る場合、Web サーバーの IP を SPF に足すだけでは足りず、そのサービスの案内どおりのホスト(よくあるのは送信用サブドメイン)に TXT と DKIM を置きます。認証に通っても迷惑メールには入り得ますが、通っていないと届きにくさは増えます。
実務のゾーンの型です(値は例です。ホストの案内を正とします)。
; Web(店舗)は新ホスト
example.com. 300 IN A 203.0.113.10
; メール(郵便局)は別ホスト。mail を CNAME でルートへ向けない
mail.example.com. 300 IN A 198.51.100.20
example.com. 300 IN MX 0 mail.example.com.
; サイト用 www
www.example.com. 300 IN CNAME example.com.
; 受信メール用 SPF(既存の郵便局を残す)
example.com. 300 IN TXT "v=spf1 include:_spf.example-mail.example ~all"
; 外部のフォーム送信(案内どおり send サブドメインへ)
send.example.com. 300 IN MX 10 feedback-smtp.example.net.
send.example.com. 300 IN TXT "v=spf1 include:amazonses.com ~all"ミニ事例です。TTL 86400 のまま A を切り替え、半日たっても「まだ古いサイト」と言われる型があります。48時間前に TTL を 300 前後へ下げ、切替後に様子を見て戻す、が扱いやすいです。
Web担当者 / 運用:契約の切れ目
ドメイン、Web ホスティング、メールは請求が別であることが多いです。担当が辞めると、お名前.com に入れない、cPanel のパスワードが分からない、が同時に起きます。台帳に、契約者メール、2要素認証の避難先、更新月を1枚にして共有します。数字や顧客名は載せなくてよいです。
一次切り分けは短いです。ブラウザでサイトは開くがメールだけ届かないなら DNS の MX / メールサーバー。メールは来るがサイトが古いなら A / CDN。両方ダメならネームサーバーかドメイン期限です。サポートに「サーバーが落ちた」と一括しない方が、復旧は速いです。
クライアントへ先に伝えること
リニューアルは店舗の内装と場所の話で、郵便局の契約変更ではありません。メールアドレスの @ 以降が同じでも、手紙の運び先は MX が決める、と図で話すと伝わります。DNS の反映にはタイムラグがあるので、切替時刻を営業のピークに置かない合意も先に取ります。休日夜間が必ず正しいわけではなく、メール担当が確認できる時間が条件です。
Web・メール・DNS 移行&公開前確認チェックシート
チェック項目 | 対象 | 確認内容 |
|---|---|---|
メールの現状 | ディレクター | 受信場所(レンタル / Google / Microsoft / その他) |
ドメイン権限 | ディレクター | ネームサーバー変更と、レコード編集の担当者 |
レコード控え | エンジニア | 切替前に A / CNAME / MX / TXT を全文保存 |
ネームサーバー | エンジニア | 丸ごと変更するか、ゾーン内の数行だけか |
ルート A | エンジニア | サイト用ホスト。メール用 IP と混ぜない |
MX | エンジニア | メール用ホスト。ルート A(CDN)を指していないか |
mail ホスト | エンジニア | CNAME でルートを見ていないか。必要なら A をメール IP へ |
TTL | エンジニア | 切替前に短縮。完了後に戻す |
SSL | エンジニア | 新ホスト側で証明書。浸透待ちを見込む |
SPF / DKIM | エンジニア | 受信用と、フォーム送信用を混同しない |
契約台帳 | 運用 | ドメイン / Web / メールの更新とログイン手段 |
切替時間 | 全員 | メール担当が確認できる枠。ピークを避ける |
切り戻し | エンジニア | 旧 A を戻せる状態で切る |
まとめ:案内所・店舗・郵便局を混ぜない
Webサーバー、メールサーバー、DNS は、同じドメインの下でも役割が違います。リニューアルで触るのは多くの場合、店舗の住所(A)だけです。案内所を引っ越す(ネームサーバー変更)と、郵便局の宛先(MX)まで空になることがあります。違いを説明できると、トラブル予防だけでなく、クライアントからの質問に答えられます。
サイト公開とメール受信を分けた移行、ドメイン周りの確認は、相談・お問い合わせからどうぞ。いまのレコード一覧が分かれば、触ってよい行から整理できます。